20代最後の夏「無駄を楽しむ旅」~その3~

翌朝、心地よい船の揺れで目が覚める、時計を見ると5時を少し過ぎたあたりだった。昨日の晩はお風呂に入らなかったから大浴場へ向かう、大浴場は朝630分からオープンだ。陽はすでに出ており朝日がキラキラと大浴場に差し込んでいた。先客が2人いたがすぐに出て行ってしまい貸し切りを楽しむ、北海道の今日の天気は曇り時々雨とあいにくの天気であったが、今のところ外は快晴だ。



お風呂から上がり、レストランで朝食をとる。苫小牧港には1330分到着なので、まだひと眠りできる時間がある。2時間ぐらい2度寝を楽しんだ後、船内をプラプラしているとまもなく到着とのアナウンスが入った。荷物をまとめ、案内に従い駐車区画へ移動する。北海道ということもあり、外の気温は夏だというのにかなり低い。上着を一枚持っていったのでそれを羽織り準備をする。相変わらずみどりちゃんはティクラーを使って一発始動だ、心地よいエンジン音が船内に響く。他の何人かのライダーはまだ出発準備をしていたので、3番目ぐらいに北海道へ向けてタラップを降りた。 

「寒い」

北海道に降り立った僕は開口一番こうつぶやいた。先ほどまでの快晴はどこへやら、厚い雲に覆われ、今にも雨が降り出しそうな残念な空模様である。

北海道の滞在は12日しかない、福島の実家に帰るのがメインだからとんぼ返りの予定だ。そんな短い滞在時間のなかで、北海道を感じれるようなところはどこかと、前日調べていたのだが、やはり北海道、広いのである。なかなか苫小牧からの距離を考えると難しい場所が多く、とりあえず「富良野」あたりのだだっ広い畑の中を走ることで北海道感というものを感じようと決めたのだった。

苫小牧港前の道路へバイクを走らせてまず迎えてくれたのが片側4車線、計8車線の道道269号線であった。「さすが北海道、これほどまで土地が広いのか!」と感心していたら、まもなく左折レーンに入ってしまい道を間違った。富良野へは国道234号線を通らなくてはならないのだが、国道235号線の表示。あわててコンビニに寄り地図をチェックし無事に234号線に復帰した。追分まで走行し国道274号線石勝樹海ロードへ入る、夕張を過ぎると樹海ロードの名にふさわしく、かなり山深いところを走る。うーん全く北海道感が感じられないさながら群馬の山奥の道でも走っているような気持ちである。信号は滅多に無くかなり速いスピードで流れているから快適ではあるが、ちょっとつまらない。そんな道中、ヘッドライトの消えているオートバイが対向から走ってきた。法律により常時点灯が義務化される以前のオートバイ、すなわち旧車の可能性が高いぞ。目を凝らして見てみると美しい緑色の車体、YAMAHA  XS1であった。相手も気にしていたのか目が合う、ふたりとも思わずニッコリピースサイン。道内の方なのか、内地からの方なのかは分からなかったが、一瞬の嬉しい出会いであった。


ひたすら274号を走り続ける、何箇所か工事のため片側交互通行になっていて、停車する。信号もないのでそれぐらいしか止まることがない。北海道に行った会社の先輩も「半クラが下手になる」と言っていたことを思い出す。そういえばそろそろ給油をしたい、常磐道友部SAで給油をしたっきり走りっぱなしであるが、ガソスタどころか民家すらないこの274号線、心配症である僕はヒヤヒヤ、寒さからくる尿意とともに二重苦でしばらく走った。幸いにも日高町の入口にガソスタがあったので給油、11リッターほど入った。日高町からは国道237号線で北上し富良野へと向かう、途中道の駅占冠で休憩、道の駅の隣が斎場で、ちょうどお通夜の時間なのか喪服姿の人がたくさんウロウロしており、なんだか居づらくなってそそくさと道の駅をあとにした。

金山峠を超えるとだんだん陽が落ちてきた、富良野市内に入り国道38号線に合流をしたあたりでついにポツポツと雨が降り始める。合羽を着るほどでもないと思っていたのだが、段々と雨あしが強くなりついに土砂降りに。慌ててセブンイレブンに入り合羽を着たが時すでに遅し、下着までびしょびしょになってしまった。

雨雲というものはとても憎たらしいもので、かっぱを着て少し走ると雨は止んだのであった。今晩の宿は素泊まり一泊3000円のペンションである。チェックインを済ませ濡れたみどりちゃんを拭いてカバーを掛ける、今日もノートラブルでありがとう、衣類を部屋に干し夕食の買い出しに出かけた。食には無頓着であり海産物があまり好きではない僕は、近くのセイコーマートで買った親子丼を頬張るのであった。



20代最後の夏「無駄を楽しむ旅」~その2~

バイクとともに船内にはいる、路面がアスファルトではないので少しビビりながらバイク用の駐車スペースまで向かった。だいたいのフェリーでは駐車に際してサイドスタンドとギアを1速に入れるように言われるが、商船三井フェリーはそれに加えハンドルロックをしなければならない。僕のみどりちゃんはハンドルロックキーが無く、現状使用不可なので事前に受付で申告をしておいた。通常より多めに固定用ベルトを使用してくれるそうだ。悪天候時などは断られる可能性もあると聞いたので、はやくハンドルロックを交換して使えるようにしておかなければ・・・。また、出港後は駐車区画への立ち入りはできなくる、事前に船内用に荷物を分けて積載しておくことをオススメする。


本日のお宿、反対側にTVがある

急な階段を昇り旅客用の区画に向かった。区画に入ると係員の方々が我々を迎えてくれる、なんだかちょっと恥ずかしい。僕の今日の宿は「コンフォート」という等級で、寝台列車でいうところの2段式開放型B寝台のようなものだ。居住スペースは1畳少しだが、テレビや鏡なんかも備え付けてある。感染症対策で、1区画4人定員のところ2人定員にへらされていた、ラッキーである。

夕暮れの大洗港
夕食
 荷物を整理し、出航まで1時間半ぐらいあるので、船内を探検してみた。旅客区画は5階~7階の3階層からなっておりなかなか広々としている、まだ自動車の搬入を行っているので、この空いているタイミングで大浴場へ行くバイカーが多いようだ。僕は朝からあまりご飯を食べていなかったから、レストランへ向かった。レストランは普段はビュッフェ形式らしいのだが、感染防止のため定食を販売している、入り口の券売機で牛たん定食1800円を購入。ご飯、味噌汁は嬉しい事におかわり自由だ。一番奥の窓際の席に座る、僕の他には2組しかいなかったからゆっくりと食事を楽しむことができた。

「ボォーーーーーー」

1945分、出航を告げる汽笛が鳴り響く、船は大洗港をゆっくりゆっくりと離れていく。すでに陽は落ちていたが、西の空は夏ということもありまだうっすらとオレンジ色に染まっている。デッキで出航をしばらく見届けた。だんだんと港の灯りが遠ざかる、フェリーで一番興奮する瞬間だ。

船内に戻ると急に眠気が襲ってきた、今日は泊勤務明けで寝ずにそのまま走ったので無理もない。汗で体がビタビタするが、お風呂は明日の朝入ることにしてそそくさと寝台へ向かった。急遽計画した北海道経由福島行の「無駄旅」、果たしてどんな旅が僕を待ち受けているのだろうか。


20代最後の夏「無駄を楽しむ旅」~その1~

毎年夏は長期休暇を取り、実家のある福島へ。夏の碧々とした空の下、風をきってオートバイで帰省している。今年は幸いにも同じく旧車乗りの二人の弟と休みを合わせる事ができたから、帰省の折には三兄弟でツーリングもできるだろう。 休暇期間は8月20日から29日まで10日間、さながらちょっと遅めの夏休みと言ったところである。長期の休暇になるから、福島へただ高速道路で直に帰るのではなく、少し寄り道をして帰ろうといろいろ計画を練ることにした。

当初は関越高速を利用し湯沢辺りで一泊、明朝より以前から走ってみたいと思っていた只見沿いの国道252号を通り帰省する予定でいた。しかし、1泊2日にしてはちょっと微妙な距離だ、グーグル先生によると全行程で7時間36分、渋滞を避け朝4時に出発しようと思っているから、休憩を入れても1日で足りてしまう距離なのである。

今年はコロナの影響で、街ゆく人々はみなマスクをつけ、不要不急の外出は避けている、1年前とは何もかも変わってしまったように感じる。そんなコロナ禍の中で、やっと少し落ち着きが見えてきた今日この頃、大打撃を受けた観光産業を支援しようと政府はGo toトラベルというキャンペーンを開始した。これは政府に申請をしている旅行先のホテルなどの宿泊施設の利用料の35%が還付されるという旅行者にとっては大変ありがたいものである。しかも「宿泊施設」の中には夜行の長距離フェリーも含まれているのである。これは利用しない手はないと、福島への帰省にフェリーを盛り込むことにした。

現在運行されているフェリーで、福島への帰省を考えると○名古屋~仙台~苫小牧行きの太平洋フェリーを名古屋~仙台間で利用○新潟~秋田行きの新日本海フェリーを利用の2択である。前者は名古屋まで目的地とは逆に走るのがなんとも悲しく、名古屋までの行程もそれほど楽しい道ではないので後者を選択した。ただそれでも出港地の新潟港まで約320キロである。自宅から福島の実家までは300キロない、そして秋田港まで行くと秋田から実家までは約300キロという帰省距離の倍を走るというまさに無駄の旅である。思えば僕は今年29歳、20代最後の夏ぐらい盛大に無駄を楽しもうじゃないか!

そんな計画を立てフェリーを予約、なんやかんやで出発の3日前になった。職場で「無駄の旅」の話をしていると「フェリーに乗りたいなら大洗から北海道でもいってくればいいじゃん」と言われた。通常だと高額でなかなか手が出ない北海道行きのフェリー、今なら割安に行けるゴクリ僕の心が揺れ動いた。


8月19日、折しもバイクの日、予定では20日4時に出発なのだが、仕事明けの12時ごろ前倒しで柏の家を出発した。目的地は大洗港...そう、結局北海道行きをきめてしまったのである。計画はこうだ、柏の自宅から大洗港まで約100キロ走行、商船三井フェリーの苫小牧行きに乗船し北海道へ、フェリーに乗ってバイクと旅をすることが目的なので、道内は1泊2日の滞在。その後苫小牧~仙台まで太平洋フェリーに乗船、仙台港から福島へ帰省をするというものである。この場合、バイクでの自走の距離は自宅から大洗港まで約100キロ、仙台港から実家までの約70キロの計170キロである。バイクにも人間にも優しい距離でその分道内で思いっきり走れるという算段だ。しかもGo toトラベルを利用すればかなりの還付を受けられる、まさに一石二鳥だ。

 

守谷SA

誰が今年は冷夏と予想したか、35度超えの猛暑の中、常磐自動車道をひた走る。みどりちゃんは極めて快調、4速トップ50マイル巡航が3200回転と、以前の5速のT140より回転数が低くエンジンにも乗り手にも快適だ。守谷SA、友部SAで休憩をし、大洗には15時前に到着した。事前に調べておいた乗船者用バイク置き場へバイクを停める。駐車場にはBMW1台だけだった。16時より乗船手続き開始、そして17時20分にいよいよバイクの乗船が始まった。乗船時間近くになるとちょこちょこバイクが集まり、シーズンオフだが10台ぐらい集まっていた。それでも例年に比べるとかなり台数は少ないらしい。エンジンを再始動させ係員の誘導に従い船の前で一旦停止、再度係員の誘導で乗船だ。



いよいよ20代最後の「無駄を楽しむ旅」が本格的に始まる!

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